いくちゃんとぜんしんが雨だれ



秋の雨って、やみそうな気配が少ない気がする。夏だともうすぐ通り過ぎますよ、ってサインがいつもある感じがするんだけどね。



いくちゃんはお絵描きをしている途中で雨が降ってくると、
「あ、いけない。ふってきた。あー、もう。いそがなきゃ。」

といって、じぶんの絵に雨を足す。この「いそがなきゃ」は洗濯物をとりこまなくちゃ、のぼくの口ぐせをまねている。





寒かったらストーブをつけて、暑い日にはかき氷。いろんな方法で、ぼくらは季節とはんたいの仲間を見つけて、ぐるぐるとどこか、「じぶんのなかの遠く」まで歩いていく。


ふと気づいたら遠くにいる。雨も、洗濯物も、いまこのとき、手をつないだ家族の絵に、雨を足している娘も。


さあさあと静かに降っている雨の音を聞いてたらちょっとだけさみしくなる。


「いこっか、ねーえパパ!どれくらい冷たいか、みに」

いくこが雨にさそう。

そうだねえ。いってみるか。


どれだけ季節によりそえるかな、それを楽しむのもぼくたちの大切な時間。

じぶんのなかの遠くまで歩いていく。

ひこうきぐもみたいに、しばらくはっきりと、しだいにうっすらとなる、線をひきながら。



「わわー!ぜんぶ雨がついた!からだじゅうにねえ。あーもー。あーもう、ねえ!」



ぜんしんが雨だれのひとは、きょうも目の前で線を引く。




まっすぐに、
いまはぼくも一緒に、
ぼくよりも遠く、
じぶんのなかの、遠くまで歩く。