いくちゃんと短いおはなし その1

  

ヘンリおじさんは一人で暮らしているよ。

ヘンリおじさんはね、実は星のハンターなんだ。

澄んだ七つ星が南の空に光る夜。
おじさんは弓はり座の形をした弓矢を持って狩りにでる。
 


おじさんはもうずっと待ってる。

一等大きい「猫の目星」が、地球の上にふらふら流れてくるのを。
 

ここだけの話だけど・・・実はね、今日がその夜だったんだ。

その証拠に、町中の猫がミケブチ公園に集まっちゃったってニュース、君も聞かなかった?
ほら、君んちの猫も、
夕暮れ時には、ふらりといなくなっただろ?
 


おじさんは、この日を生きがいに待ってた。
生きがい、ってやつは、人間の「のん気」や「がんばる」を支える、マタタビみたいなもんさ。
 
 
地上の空気も、すっかりお揃いの温度で空を受け止めてる。
いよいよミケブチ公園に、ヘンリおじさんも到着した。
 
 
星を確認。十年ぶりのチャンスだ。
ちょっと武者震いしてから、すぅっと、呼吸を整える。
おじさんは大きく左腕を宇宙に伸ばすと、弓をひきしぼる・・・


そのとき、真上の宙から、お願いするような声が聞こえたんだ。


まって。

矢を打つのはやめて。

 
それは、他でもない、猫の目星そのものの声だった。 

猫の目星には、目的があったんだ。
地球の上までやってきた目的。
猫たちが持ってる両目のガラス玉に、光を吹き込むのが彼女の仕事なんだ。
 

ほら、猫ってさ、不思議な目をしてるだろう?
実はね、動物の目玉には、動かない植物や、目のない建てものを癒す力があるのさ。
草花の匂いや雨宿りできる軒先に、ぼくらが守られているようにね。


理由を聞いたヘンリおじさんがどうしたかって?
もちろん、すぐに弓矢をおろした。
 

それじゃ生きがいがなくなっちゃうじゃないか、と心配な子どももいるかもしれないな。 
でも大丈夫だよ。
猫の目星はお礼に、素敵なプレゼントをくれた。
それは、淡く不思議に光る、ほたる石。
そう、ちょうど猫の目のように、緑色に光るんだ。


そうそう、ヘンリおじさんは今後も、弓矢を持つのをやめるってさ。
こんどは両手に、つるはしとルーペ。
もう分かったね?
そう、おじさんは、石ころ集めが好きになっちゃったんだ。



ベガやアルタイルが、あんなに大きな声でおしゃべりしてる。
オリオンもジョッキを片手に、仲間と騒ぎ出したところ。
七夕にはうってつけの夜。
今日からしばらくの間は、たくさんの星が宇宙には輝きつづけるだろうね。
天球にもいよいよ、夏がやってくる。


いじょう、宇宙予報士からのおたよりでした。
こんばんも、ゆっくり、おやすみなさい。