いくちゃんと夏カゼ

 


育子、夏カゼをひく。


暑いうえに、さらに熱の篭もった額に手を当てる。
しっかりしないといけないのに、私は虚楼な目をしてしまう。


いつもはみずみずしい彼女のほっぺたが、重苦しそうな息づかいで負けそう。
しっかりしないといけないのに、私のほうが脆弱になってしまう。


枕元にはこないだ作った「海のうた」の譜面(育子は譜面が書けないので、録音したものを私が耳コピーする)が散らばる。


いまも、
うみは、
育子のそばにいるだろうか。


おでこから流れ落ちる汗で、まつ毛が濡れている。 
 

こんなときこそ、私がしっかりしないといけないのに。