いくちゃんと五歳の海

 


♪うみとカニちゃんお友だち
 うみといくちゃんお友だち
 カニちゃんってば 知らなーいの?いくちゃんのこと
 じゃあ待ち合わせね
 やくそくちゃんね
 かにちゃんは横歩き  
 いくちゃんはまっすぐいくね  
 
 
 




前回のはじめてちゃんの海から、加速度的に海を経験した育子。 

スラムダンク」の桜木花道ばりに

「海が好きです、今度はうそじゃないっす」
と言わんばかりの、海と海関係者(?)へのアピールです。
 
またひとつの世界が、育子のなかで膨らんでいきます。

いくつもいくつもの世界が溶け合って大きくなって、 
やがてぎゅうと小さくなって、宝石のようにコトリとこぼれるその日。
育子は5歳の海をどんなふうに思い出すだろうか。


 
 
 



 



本当のことを申し上げますと 
海は言わない 触らない
私が触れる、物を言う


ですから 
海がはじめて
私に交際を申し込んできた
そのように思えたあの日 
あの日の告白は
私のひとりごとだった
  


「好きです」
「私もです」
「でも、おそろしいです」 
「私もです」
「あなたを失ってしまう」
「あなたはわたしになってしまう」
「わたしは物言わないあなたが好きです」
「あなたに触れていたい」
「でも、おそろしいです」
「あなたに触れなくなることが」
「わたしが物言わなくなることが」


 
 
あの日は私のひとりごと 
海は言わない 触らない
私が触れる 物を言う