いくちゃんと精霊のふね
長崎では「精霊ながし」というイベントが行われる。
初盆の場合、親族が寄り合い船を作って、景気よく爆竹を放り投げながら、市の中心地まで担いで歩く。
長崎市ほどの規模はないが、佐世保でも行われる。
今回は叔父の初盆だったため、男衆は珍しく一堂に会して盆に備えた。
(私の血筋はノラクラした男が多いので、なかなかに集まらない。ちなみに女性は、ま逆)
出発前、私の従兄弟でリーダーの大ちゃんから、Tシャツが配布される。
なぜかものすごく濃い黄色。
そう、24時間テレビの色とまったく同じあの色です。
なぜ・・
どうしてと問うても、大ちゃんは「連帯感があっていい」と、シャツを捲くり、がっしりした腕を出しながら朗らかに笑う。
むむ・・・
大ちゃんは昔からこうだった。がっしりしていて、妙なところがステレオタイプなのに、全然嫌味がない。
徳光さんの愛もサライの愛も信じられない、ひねくれものの私とは大違いだ。
まぁ、いいか。地球は愛に救ってもらえば。
私は私で救われない気持ちにならないように、毎日ちゃんと寝て食べて歩こう。
そんな意味のない決意を新たに、我が親族の船も船出する。
はじめは爆竹にオドオドしていた育子も、いつのまにか自分で投げるまでに!結構あぶない5歳児!
火をつけても、なかなか掴んだ爆竹を離そうとしないので、やめさせました。根性あるな。
興奮気味の育子、
「ねー、今日はばくだんの戦争なの!?
それにね、船は海じゃないと泳げないんだよ?
いくちゃんね、ひいちゃんに大砲のはなしも聞いたよ!
音があとからくるんだってさー!
だからいくこ、爆発したあとに歌わなくちゃだめね!ばくだん戦争のときはね!」
いきりたちながら、爆竹音とも叫びともつかない奇声を発している。
♪おふねの日
ずっころばしたら
ちゃぷちゃぷぼかん!
おふねの火
どんどんくらーくなったった
ひかりがころんで
ちゃぷちゃぷ歌って
ずっころばしたら
ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ
おぼれろ ぼれれろ
ちゃぷちゃぷぼかん!
ばくだん戦争の女神・ミネルバ育子の鎮魂歌が、船上の叔父にも届きますように。