いくちゃんと巣鴨の女王



「センセー!このデカデカちゃんの葉っぱはー?」



「これは、ホオの葉っぱや」




「ほ、おー?ほ?」



先生が育子に、大きな葉っぱをモギって渡す。



「そうや。昔はこれに、おにぎり包んでチューハン(先生は昼ご飯のことを、チューハンという)にしよったんや」



「へー。そーなんですか。そーなんですねえ。」



普段大人相手にもへっちゃらワードばかり使うのに、先生の前ではなぜか丁寧語の5歳児。



「あとな、この紫のキノコはめちゃうまやで。ぬるっとしてるけども」


ビニール袋に沢山入ったぬめぬめのキノコ。
そして、相当にむらさき色。
なんだか巣鴨の女王様みたいな・・・


「うぇ〜、ぬるぬるです〜。センセー、ぬるぬる〜」



育子はうまくキノコが掴めず手がベタベタ。

私もぬめりに飲み込まれないように、さっとキノコをひとつほおばる。

なんと。

う、うまーい。

何のキノコかも分からないのに、うまーい。


育子は、どおしておいしいのー?ねえ、ぬめぬめなんだよー?とまだ警戒しながら食べない。
先生はしたり顔。


「なんのこっちゃ分からんもんは、都会のほうがぎょうさんあるやろ。
 あまりにもようけあるもんやから、麻痺してしまっとるんや」



おっしゃるとおりでございます。

物事を見定める暇のない生活。

その状態を健全だと、勘違いしてすごしてしまいがち。



「いくこも食べてみる!ねー、センセ、とって!食べます!」



さあまだヨチヨチ歩きの育子さんの舌、この味を気に入るでしょうか。



娘の黒い瞳の中から、巣鴨の女王の笑い声が聞こえるような気がした。