いくちゃんと羽のつぶつぶ
育子は絵を描いているとき、たまにむつかしい顔をしていることがある。
あまりにもスケッチブックとの距離が近い。
そんなに近いと、目が悪くなるよっ!
とたしなめてみると、こっちをきっと睨んでから
「もーね。いっしょうけんめいじゃなきゃ、ダメなのよー?
羽のつぶつぶ、きれいにかかなきゃなのに!」
羽のつぶつぶ、というのは、文字で説明しづらいけれど、ほら、魚の場合だとウロコを表現するときに描く、あれです。
「せっかくの天使がにげちゃうでしょ?三時までに帰れないと、飛べなくなるのよー!?」
絵のなかに何を閉じ込めたのか、それからどこへ帰してあげるのか。
ほうっておいても物語ははじまって、いつでも娘はいっしょうけんめいに手助けをする。
おやつの後もう一度のぞいてみると、羽のつぶつぶはきれいな山なりを続けていて、
はみ出したさきの女の子のニコニコ顔とつながっていた。
美味しいティラミスを食べて、娘は満足そうな寝顔。